「入り切り」で家計を動かしてみる
生活費の見直しというと、まず食費を削る、といった話になりがちです。ですが実際に家計への影響が大きいのは、金額そのものよりも「持つか持たないか」を選べる費目であることが少なくありません。このツールは、費目ごとに金額を直すだけでなく、費目そのものを入り切りできるようにしてあります。自動車を持つかどうか、教育費をどのくらい見込むかといった選択によって、年間でいくら変わるのかを具体的な金額で確認できるようにするのが狙いです。
たとえば「子ども1人」の世帯モデルで試算すると、費目をすべて入れた状態での支出合計は月あたり413,000円になります。このモデルの手取り月収(400,000円)と比べると、毎月の収支はおよそ13,000円の赤字です。ただし年間の手取り賞与(700,000円)を合わせると、年間の貯蓄額は544,000円になります。月々の家計簿だけを見ると赤字に見えても、賞与を含めた年間ベースでは貯蓄が積み上がっている、というのはよくある形です。毎月の数字と年間の数字を両方見ておくと、慌てずに済みます。
貯蓄率という物差し
「貯蓄率」は、年間の手取り(月収×12+賞与)のうち、実際に貯蓄に回せた金額の割合です。同じ子ども1人のモデルで計算すると、年間の手取りに対する貯蓄率はおよそ9.9%です。貯蓄率に絶対の正解はありませんが、ライフステージや目標によって目安にする水準を決め、いまの数字がそこからどれだけ離れているかを確認する使い方が現実的です。金額の大小だけでなく、割合で見ることで、収入が違う世帯とも比べやすくなります。
固定費と変動費、切りやすい費目・切りにくい費目
生活費は大きく、金額がほぼ決まっている「固定費」(住居・通信・保険・サブスクなど)と、月によって増減する「変動費」(食費・日用品・交際費など)に分けて考えられます。固定費は一度見直すと効果が長く続きやすい一方、契約の見直しに手間がかかることが多く、変動費は日々の工夫で動かしやすい代わりに、意識し続けないと元に戻りやすい、という違いがあります。
このツールで「切りやすい費目」として分かりやすいのが、自動車や教育のように、持つか持たないかそのものを選べる費目です。子ども1人のモデルでは、自動車を切ると年間360,000円、教育を切ると年間240,000円、支出が変わる計算になります。実際に自動車を切った場合で試算し直すと、同じモデルの毎月の収支は17,000円まで変わり、赤字だった月々の収支が黒字に転じます。もちろん、自動車や教育は暮らし方そのものに関わる選択であり、金額だけで決めるものではありません。ですが「切るといくら変わるのか」を先に数字で知っておくことは、迷ったときの判断材料になります。
反対に、住居や保険のように「切る」という選択肢そのものが現実的でない費目もあります。こうした費目は、入り切りではなく契約プランの見直しや、住み替え・借り換えといった別の手段で動かすことになります。入り切りで動かせる費目と、プランの見直しでしか動かせない費目を分けて考えると、優先順位がつけやすくなります。
世帯のかたちで、そもそもの規模が変わる
世帯のかたちを切り替えると、費目の初期値がまとめて入れ替わります。単身のモデルでは支出合計が月あたり208,000円であるのに対し、子ども2人のモデルでは481,000円と、2倍以上の開きがあります。同じ「生活費」という言葉でも、世帯の人数や構成によって前提となる金額の規模がまったく違うため、他人の家計と自分の家計を比べるときは、まず世帯のかたちが近いかどうかを確認したうえで見るようにしてください。
この先の見通しは、あくまで「いまのペースが続いたら」の話
「この先いくら貯まるか」のグラフは、いまの毎月の収支と年間の賞与が変わらずに続いたと仮定して、単純に積み上げた金額です。子ども1人のモデルのまま10年続けると累計はおよそ5,440,000円、20年ではおよそ10,880,000円という計算になりますが、これは今日の条件が20年間そのまま続いた場合の話にすぎません。あえて運用の利回りを含めていないのも同じ理由です。利回りを仮定すると、その利回り自体が正しいかどうかという別の議論が必要になり、投資の助言に近づいてしまいます。このツールはあくまで「いまの家計のペースを、期間で伸ばすとどう見えるか」を確認するための単純な物差しとして使ってください。
この試算の限界
この試算にはいくつかの前提があり、それぞれ実際の暮らしとはズレが生じます。まず、費目の初期値は総務省の家計調査などを参考にした編集前提のモデルであり、特定の年度の公表値をそのまま使ったものではありません。地域や住まいの形態によって、特に住居費は大きく変わります。次に、物価の変動を考慮していません。数年単位で見ると、同じ生活水準でも必要な金額そのものが変わっていきます。また、転職や昇進、子どもの進学といったライフステージの変化も反映していないため、遠い将来になるほど前提そのものが崩れやすくなります。さらに、家電の故障や冠婚葬祭、医療費の急な発生といった一時的な大きな出費も、月々の平均値には含まれていません。こうした支出に備えるための別枠の貯蓄は、このツールの「毎月の収支」とは切り離して考えることをおすすめします。最後に、将来の貯蓄額は運用による増減をいっさい見込んでいない単純な積み上げです。実際に資産運用を行う場合は、この試算とは別に考える必要があります。